星新一さんについての本。
あのショートショートの「ボッコちゃん」「きまぐれロボット」の作者....そんな星新一の子供のころから、学生、青年実業家、作家という各時代を、最相葉月が丁寧に追った長編記録である。

星新一 一〇〇一話をつくった人
- 最相 葉月
- 新潮社
- 2415円
livedoor BOOKS
書評/ルポルタージュ


★★★★★ west32書評 ★★★★★
今の私達にとって作家「星新一」とはどんなイメージだろうか?
読んだことのあるショートショート「ボッコちゃん」「きまぐれロボット」をさして、子供から大人まで誰でもが(もちろん海外でも)『ああ、あの人だ』というに違いない。そんな星新一の子供のころから、学生、青年実業家、作家という各時代を追って、彼がSF界の殿さまへ、そして1001編を書き上げ、その後の彼の記録である。
星新一は、実名を親一といい、父が星一(はじめ)で星製薬の創業者。星製薬は大正から昭和にかけての国内の医療用モルヒネ生産を一手に取り扱うと同時に、全国で初めて医薬や生活雑貨のチェーンストア・システムを確立した巨大企業であった。また母親の叔父は森鴎外。星新一の系譜はとてつもなく凄いものだった。このため彼の少年、青年時代は本当におぼっちゃんとしての生活だったらしい。官僚や華族、軍人の子弟が行く東京高等師範付属中学校へ行き、戦中も勤労奉仕はうまく立ち回り、東大農芸科学科を卒業する。
少年、青年時代はぼっちゃんとしての生活で読んでいても面白くないが、実はこの本の四分の一近くは父親の星一の記録でもある。一代で星製薬を作り、それが戦争やその後の色々な圧力で動きにくくなっても海外事業でなんとか収入を得、政界にも幅広いつながりを持つ。星一は、自らがビジネスチャンスを作り出す非常に魅力的な人だと私は思う。
父が米国で急死したとき、新一はまだ24歳、そんなおぼっちゃんの肩に星製薬の全権がかかる。しかし、到底できるはずもなく、会社も財産も人手に渡って行く。そんなとき、逃避ともいえる状況で手をつけ始めたのがSFの世界。そのままショートショート作りへとのめりこんで行く。その裏には、参謀総長・江戸川乱歩、仕掛け人・矢野徹による作家・星新一売り出し戦略があったとか。
そのあともSF界で殿さまとして確固たる場を持ってSF界をリードし、後進のために文学界におけるSFの位置づけを高める努力をした。
ところで、あの有名な「ボッコちゃん」がSF同人誌宇宙塵に掲載されたのは昭和33年、つまり1958年だ。今からざっと50年近く前、そんな時代の作品だった。でも今でも新鮮に読める。星新一は元々の文章や内容が時代・風俗を追わないような作品作りをしていたので、いつの時代でも読めるものだが、それにもまして改訂作業をしていたらしい。「ダイヤルを回す」を「電話をかける」にとか。普遍的な作品とするため、余計な描写や形容などをすべて削ぎ落とし、俳句のようにしていったという。このような作業を彼は、「こんな心がけでいると、民話にちかいものになってゆく。・・・・本当は民話作家なのかもしれない」と述べている。
彼の言葉「みんなの間で回し読みされる作家だから、耐用年数の長い小説にしなきゃいけないんだ」。この言葉が心に残るとともに、これからも相当長く回し読みされる作家だと思う。そんな星新一を中心とした貴重な記録、じっくりと読んで頂きたい。
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