外国語をしゃべっていると頭の中も違う考え方になるような気がする。通訳っていうのはいくつかの世界を頭の中で並行して持っているのかもしれない。

通訳
- ディエゴ・マラーニ、橋本 勝雄
- 東京創元社
- 2415円
書評/ミステリ・サスペンス

★★★★★★★★★★ west32書評 ★★★★★★★★★★
仕事柄私は外国の方と話す機会が多いが、そんなときにはどこの国の方とでも、もっぱら英語を使う。話をする、つまりコミュニケーションの場で英語を使っていると、自分の意識の中では日本語というのは考えていない。英語で考え、英語で話をしているとでもいうか、概念だけがあり、日本語という意識はあまり考えていない。最も私の語彙力は乏しいのでどうしても日本語でしか思い浮かばず、日本語モードになることもあるが....
私が話をするときは、自分と相手の両方だけで、頭の中はもやもやの概念の状態か、日本語か英語のどちらかの状態で、決して二つが並行していない。日本語の内容と英語の内容は表現的に違うと思う。ところが通訳というのは凄い。二つの言語、意識が同時に頭の中に存在するのだ。
さてこの本は、そんな言語というものがいくつもパラレルに頭の中で同時に存在したらどうなるか?を扱っている。二つの言語、いや思考、概念が頭の中に存在するというだけでも混乱しそうだが、ここに出てくる通訳は五ついや十以上の言語を扱える人達、しかも自身がその言語を使うだけでなく、通訳として他人に別の言語で変換して伝える。少なくとも通訳の間は複数の思考が頭の中で存在する。こんな沢山の言語の意識の中で混乱がおきそうだ。
そして国際機関の管理者である主人公ベラミーはそんな通訳の一人の言葉で自身も混乱の中に飲み込まれる。自身が5カ国語を操れるベラミーもまた、その混沌の中にのめりこんいく。違う言葉を使うことにより、他人の意識になっていく....怖い!しかも色々な人がこの一人?の通訳により影響を受け始める!
著者、マラーニ氏はイタリア生まれで、自身もEU理事会の通訳・翻訳官。自らが通訳を行う間にこんな面白い状況を思いついたのだろうか?特に言語による治療が面白い。言語を制限したり、新しい言語を学ぶことにより、患者の治癒を行うという奇抜な発想「言語クリニック」、言語が毒であったり、鎮静剤であったり、催眠剤であったり....こんなことを誰が思いつくだろうか!ドイツ語、ルーマニア語、フランス語、エストニア語、ナバホ語....
残念ながら私はこの本を原語で読むほどの語学力がないが、言語で読めたらもっと面白いのにと悔しい。
この本「通訳」は、言語ミステリーとして面白い物語、途中にボニーとクライド風のところで盛り上げたり、ちょっと重たくてしんどい幻想的な部分もあったが、言葉というものを一度考えてみたい人には是非ともお薦めしたい本だ。
[登場人物]
国際組織の第4局長フェリックス・ベラミー局長、その妻イレーネ
通訳XXX(15カ国語 母語は独、日本語も)、ギュンター・シュタウバー主任(5カ国語露仏英伊西語)
独バイエルン州の「言語療法」の神経科医ヘルベルト・バーヌンク博士、患者の毎日違う言語を使うクフィアトコフスキ大佐、オルテガ、アルゼンチンの独コミュニティー出身のスロベニア人ウッドマイヤー、ベルギー人ファンデルケルクホフ、ルーマニア人のロクサーナ・ポペスク夫人、看護師フラウ・ゴールドシュタイン
マグダ、ブコヴィナの怪物
ミュンヘンの富豪クラウス・バーク、リトアニア語を母語とする通訳ミルコ・ストロヤン
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